外資政策

外資政策はタイの経済・産業政策にとって重要な位置を占めている。ただ、現在のような積極的な政策をとるまでには、紆余曲折があった。

 

1954年10月、タイ政府は第1次産業からの脱却を目指し、工業化政策を打ち出した。「産業奨励法」を制定し、投資委員会(BOI; Board of Investment)を設立した。しかし、規制が多く、外資にとって魅力はなく、外資参入はうまくいかなかった。

外資の導入が思惑通りに進まなかったため、1960年代に入ると、タイ政府は外資の積極的導入に政策のかじ取りを切った。

しかし、1969年以降の貿易収支の悪化、大量の外資進出に反発するナショナリズムの高揚を受け、政府は1972年、「投資奨励法」「外国人事業法」「外国人職業法」を制定し、外資に対して選別的な政策を採用するようになる。

現在のような外資参入に積極的になった契機は、次の2点である。

まず、1985年9月のプラザ合意だ。急激な為替相場の変動を受け、日本や韓国、台湾などは、自国内の労働集約的な産業を、賃金が安く、労働力の豊富な東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国へとシフトさせた。

そして、1997年7月のアジア通貨危機により、タイは国際通貨基金(IMF)の指導下で産業構造調整を実施することとなった。そのなかに、外資政策も含まれていた。外国企業の出資比率規制の緩和、輸出比率規制の緩和などが順次実施された。外国人事業法等で一定の参入規制を設けつつも、一方では投資奨励策を掲げて外国からの投資を積極的に受け入れた。

 

外資奨励策としては、まずBOIによる投資奨励が挙げられる(詳細は、BOIの項目を参照のこと)。

BOIは次の7区分129業種を投資奨励業種と定め、恩典を与えている。

 

・農業および農産品加工業(21業種)

・鉱山、セラミックス、基本材料(19業種)

・軽工業(16業種)

・金属製品、機械、運輸機器(20業種)

・電子・電気部品(9業種)

・化学、紙、プラスチック(16業種)

・サービス、公共事業(28業種)

(出所)投資委員会(BOI)

 

また、特別重要業種に指定された次の業種については、特に厚い恩典が与えられている。

 

・農業および農産品加工業

・公共事業、インフラ建設、基盤サービス事業

・環境の保全と対策に関わる事業

・技術開発・人的資源開発事業

・重点産業(鋳造、鍛造、航空機などの製造や、産業廃棄物処理など)

(出所)投資委員会(BOI)

 

さらに、特別重要業種のなかでも特に国益をもたらす事業については、さらなる恩典が与えられている。

 

・特別重要事業以外の農業および農産品加工業

(植林、乾燥植物、サイロ、冷凍倉庫、冷凍運輸など)

・技術開発および人的資源の開発に関わる事業

(バイオテクノロジー、研究・開発事業など)

・国内で生産できないもの

(造船、船舶の修理、航空機の製造・修理、燃料電池の製造など)

・環境の保全と対策に関係する事業

(環境にやさしい化学製品の製造、環境にやさしい製品の製造)

(出所)投資委員会(BOI)

 

投資奨励法に基づく恩典のほかに、タイ工業団地公社(IEAT; Industrial Estate Authority of Thailand)が、タイ工業団地公社法に従い、管理・運営する工業団地に立地する企業に対して恩典を与えている詳細は、IEATの項目を参照のこと)。

工業団地は、一般の企業が入居する一般工業区と自由事業区に分けられ、恩典内容も異なる。

IEATの工業団地には、BOIのような奨励対象業種はなく、タイの経済発展や環境保全などIEATの目的に適合した企業であれば入居が認められる。IEATが管理・運営する工業団地内に入居する外国法人は、工業団地内で土地を所有することが認められるほか、ビザや労働許可(ワークパーミット)についてもBOIと同様の恩典が与えられる。

 

最後に、アジア地域にある関係会社を統括する組織をタイ国内で設立し、タイをアジアのハブとするため、BOIにより地域統括本部(ROH; Regional Operating Headquarters)制度が整備されている。5年以内に最低3カ国の海外の関連会社もしくは支店で役務を提供する事務所を設立することなどを条件に、財務省およびBOIから各種の恩典が与えられている。

 

一方では、外資に対する規制も存在する。

外国人事業法では、外国資本が50%以上を占める外国法人がタイで事業を行う際に、従事することができない事業(43業種)を次の3種類に分け、規制している(詳細は、『ビジネスに関する法律』を参照のこと)。

 

・特別の事由により、外国人の事業活動が許可されない事業(9業種)

・国家安全保障に係る、または文化、伝統、地場工芸、天然資源・環境に影響を及ぼす事業(13業種)

ただし、 内閣の承認下に、商業大臣からの許可を受けた場合には従事可能

・外国人に対し、タイ人が十分な競争力を有していない事業(21業種)

ただし、外国人事業委員会の承認下に、商業登録局長からの許可を受けた場合には従事可能

(出所)商務省

 

外国法人の最低資本金額についても200万バーツ以上と規定されている。ただし、外国人事業法に基づき許可を取得する必要のある規制業種の場合には、300万バーツ以上が必要となる。

 

出資比率に関しても、BOIは外国法人の出資比率について下記のように定めている。

・農業・畜産・漁業・鉱山業または外国人事業法の「特別の事由により、外国人の事業活動が許可されない事業(9業種)」のサービス業の投資プロジェクトは、タイ国籍者が全株式の51%以上を保有しなければならない

・製造業の投資プロジェクトは、その立地に関わらず、外国人に株式の大多数あるいは全数の所有を認める

・しかるべき理由があるときには、BOIは恩典を与える業種のみに対して外国人に株式保有比率を規定することがある

 

外国人が就業を目的としてタイに入国する場合には、外国人就労法の規定により、ノンイミグラントビザを取得して入国し、入国後直ちに労働許可(ワークパーミット)の申請・取得をしなければならない。

一般的な会社が労働許可(ワークパーミット)を取得するためには、雇用主である企業の払込資本金額が最低200万バーツ必要となる。外国人1人を雇用するためには、最低4人のタイ人を雇用する必要がある。駐在員事務所の場合は、外国人は2人まで認可される。

また、39業種については、外国人の就業が禁止されている。

 

原則として、外国籍の個人および外国法人の土地取得を禁止している。ただし、BOIの投資奨励を受けている場合やIEATの管理する工業団地に入居する企業等、一定の条件を満たした場合には土地取得を認めている。