インフラ

この項では、タイのインフラストラクチャー(社会基盤)を知るために、「道路」「鉄道」「港湾」「空港」「通信」と「電力」に関し、簡潔に説明したい。

タイのインフラは、東南アジア諸国連合(ASEAN)のなかでも、シンガポールに次いで、マレーシアと双璧をなすといわれているほど整っている。タイは、川上から川下までの産業集積地であるとともに、インフラの比較優位性が、日本企業の進出を促す要素となっているといえる。

 

道路

ベトナム戦争(1960~75年)時、米軍兵站地がタイ国内に作られたため、物資補給、兵士の移動等の目的で、1960年代以降道路整備が急速に進められた。その結果、現在のような非常に整備された道路網を持つにいたった。高速道路網も整備されている。

バンコクの交通渋滞を除けば、タイ国内の道路事情はきわめて良好である。そのため、整備の遅れている鉄道網に替わり、長距離トラック・バスが発展し、国内貨物・旅客輸送の大部分を担っているのが現状である。

バンコクの交通渋滞の要因の一つとして、2012年に実施された自動車を初めて購入する人への税制面優遇措置が指摘されている。

 

鉄道

1889年に開業した。

現在の主要路線は、「北線」「東北線」「東線」「南線」の4線。電化区間はなく、ディーゼル機関車・車両によって運行されている。

単線地域がほとんどのため、発着時間の遅れが頻繁に起こるなど問題が多い。

・北線は、バンコクから北部の都市チェンマイまでを結ぶ全長751キロメートル。所要時間は11~13時間

・東北線は、バンコクから東北部のナコンラチャシマまで行き、そこから北方向のラオスとの国境の町ノンカイ行きと、東のウボンラチャタニ行きの2線に分かれる

ノンカイまでは全長624キロメートルで、所要時間11時間。ウボンラチャタニまで全長575キロメートルで、所要時間10~13時間

・東線は、バンコクからカンボジア国境アランヤプラテートまでを結ぶ全長255キロメートル。所要時間は5時間30分

・南線は、南部最大の都市ハート・ヤイまで行き、そこから東南方向のスンガイ・コーロク行きと、さらに南下しパダン・ブサール行きまでの2線に分かれる。パダン・ブサールまでの所要時間は17時間

 

バンコクには、BTSと呼ばれる高架鉄道と地下鉄MRTがあり、渋滞を避けたい人の利用が多く、通勤・通学時には日本と同様に満員となる。

BTSは、ナショナル・スタジアム駅とウォンウェン・ヤイ駅を結ぶシーロム線、モーチット駅とベーリン駅を結ぶスクンビット線があり、バンコク中心部を走っている。運行時間は、6時から24時までで、運賃は距離により15バーツから40バーツ。2013年1月にはシーロム線が延伸する。

2004年に開通したMRTは、フアラムポーン駅とバンスー駅を運行。シーロム駅、スクンビット駅、チャトゥチャック駅でBTSの駅と連結している。

 

港湾

1980年代以降、タイの経済発展にともない港湾の整備・拡充がはかられるようになった。「レムチャバン港」「クロントイ港」「マプタプット港」「ソンクラー港」などが主要港湾である。

・レムチャバン港は、バンコクの南南東約110キロメートルのチョンブリ県シラチャに、1991年開港された。水深14メートル、70,000重量トンの大型船の入港が可能。タイ最大のコンテナ取扱港でもある。後背地には、レムチャバン工業団地をはじめ多くの工業団地があり、商業港の色彩が強い

・クロントイ港は、チャオプラヤー川の28キロメートル上流にある。開港は1951年。水路が狭く、水深も8.5メートルしかないため、10,000重量トン以上の大型船が入港できないという弱点を持っている。そのため、レムチャバン港が開港してから、取扱量が減少し続けている

・マプタプット港は、バンコクの南東約180キロメートルのラヨン県マプタプットに、工業団地とともに基盤インフラとして整備された。開港は1992年。水深10メートルで、60,000重量トンの大型船の入港が可能

・ソンクラー港は、1988年にマレーシアとの国境近くソンクラー県のタイ湾側に開港した。海から港へは、幅120メートル、水深9メートルの進入路を通るため、7.5メートル水深以上の船舶の入港はできない

 

空港

国際空港は、「バンコク(スワンナプーム、ドンムアン)」「チェンマイ」「チェンライ」「ハジャイ」「プーケット」「サムイ」の計7空港ある。乗降客数、輸送貨物量ともに、スワンナプーム国際空港のシェアが圧倒的である。

・スワンナプーム国際空港は、2006年9月に全面的に操業を開始。

旅客の増加が予想以上で、処理能力を超えるため、2012年10月1日から、一部の格安航空会社は、ドンムアン空港へと移動せざるを得なくなった。

・ドンムアン国際空港は、バンコク中心部の北20キロメートルのところに位置する。スワンナプーム国際空港が操業する以前は、タイの表玄関だった。

 

スワンナプーム空港からバンコク都心部までは約30-60分。エアポートリンクを利用すれば、約20分である。

 

通信

以前は、タイ電話公社とタイ通信公社が、国内・国際電話サービスおよび郵便事業を担っていたが、電気通信サービスの高度化・多様化により、1990年代から民間企業の参入も可能となった。

固定電話の契約数は、2006年をピークに減少傾向にある。主な事業者は、市内・長距離・国際電話を取り扱うタイ電話会社(TOT)、バンコク市内のサービスのみのTRUE、バンコク以外をカバーするTT&Tの3社である。

携帯電話の主な事業者は、AIS、DTAC、True Moveで、これら3社で携帯電話契約件数の大部分を占める。

インターネットは、1997年の世界貿易機関(WTO)との合意に基づき、2005年に正式に自由化された。利用者は増加傾向にある。ブロードバンドはADSLが主流だが、回線速度は先進国並みの速さではない。

 

電力

電力事情は安定している。瞬時停電の場合も復旧は早く、停電の場合は事前通告があるのが一般的である。

電源構成は、天然ガス約70%、石炭約20%と、これら2資源で90%を超える電源をまかなっている。天然ガスは、国産ガス田から産出しているほか、ミャンマー、マレーシアからパイプラインによって輸入している。ガス需要の7割が発電用で、他には自動車等で利用されている。

2012・13年に原子力発電所2基を稼働される計画もあったが、2011年3月の福島第1原子力発電所事故を受け、計画は進展を見せていない。

なお、現在でも、ラオスなどから電力を購入している。