政治概観

 この項では、タイの政治を知るために、「政体」「王室」「立法」「司法」「行政」「外交」と「軍事」に関し、簡潔に説明したい。

政体
 1932年6月24日の人民党による「立憲革命」による臨時憲法公布以来、立憲君主制を採用している。その後、クーデターなどにより憲法廃止・改正が何度か行われたが、国王を元首とする体制に変化はない。
 国王は、憲法に基づき閣僚の任命権や議会の解散権等を有するが、原則直接的には政治に関与しない。

王室
日本人町でも有名なアユタヤ王朝(1350~1767年)はその後ビルマ軍に占拠されていた。そのビルマ軍の勢力を駆逐した将軍がトンブリー朝を設立したが、奇行が目立ち始めトンブリーに内乱が勃発。王は王位をはく奪され、最後は部下の手によって処刑される。
その後、王位に就いたのが、現チャックリー王朝の幕を開いたチャオプラヤー・チャクリー将軍であった。チャクリー将軍は、プラ・プッタ・ヨートファー・チュラロック・マハーラート(ラーマ1世)と名乗り、1782年4月6日に即位。同王は、都をトンブリーからチャオプラヤー川の東岸へ遷都し、以後バンコクが首都となっている。
現国王は、プーミポン・アドゥンヤデート国王(ラーマ9世)、King Bhumibol Adulyadej(Rama IX)。1987年には大王の尊称が奉呈されている。これは、現王朝では、ラーマ1世、チュラーロンコーン国王(ラーマ5世)に続き3人目という名誉なことである。

立法
国会は、上院と下院の二院制。
定数は、上院150議席(76人は選挙により選出、残り74人は任命)で任期6年、下院は500議席(うち小選挙区375人、比例代表125人)で任期4年となっている。
法案の発議権は、内閣、下院議員、裁判所もしくは憲法に基づく独立機関、および国民にある。法案は、まず下院に提出されることになっている。
被選挙権は、上院は出生によるタイ国籍を有し、40歳以上で、学士かそれ相当の教育を受け、政党に属していない者。下院は出生によるタイ国籍を有し、25歳以上で、政党に属している者と規定されている。
選挙権は、上・下院とも18歳以上の者。

司法
 法制度は、フランスなどの大陸法系と英米法系の両者の影響を受けている。
 最高規範は憲法で、基本法として民商法典、刑法などがあり、その下に労働法、税法などの成文法が整備されている。
裁判所制度は、三審制を採用している。
第一審裁判所として、「民事裁判所」「刑事裁判所」「家事および少年裁判所」「労働裁判所」「税務裁判所」「知的財産権および国際通商裁判所」と「破産裁判所」がある。
第二審裁判所として、4つの高等裁判所があり、最上級裁判所として最高裁判所がある。
また、特別裁判所として、憲法に関する事件を取り扱う「憲法裁判所」、行政事件を取り扱う「行政裁判所」、軍に関する訴訟を取り扱う「軍事裁判所」がある。
 訴訟に際し、裁判所に支払う手数料や弁護人費用、雑費などが必要なため、少額事件の場合は経費の方が多くなることもある。
 また、判決までに要する期間が、第一審の場合約8カ月~3年間程度かかる。
 弁護士資格は、法学部卒業後、タイ法曹界が定める一定の要件を満たせば取得できるため、弁護人の能力にはばらつきがある。

行政
中央行政組織は、「首相府」「国防省」「財務省」「内務省」「商務省」「労働省」「工業省」など1府19省。
 地方行政組織は、2種類が混在している。1つは、県、郡、地区、村という、中央政府の直接監督下にある行政組織。他は、県行政機構、自治市・町、地方行政機構、バンコク都およびパタヤ特別市という公選制を取り入れ、比較的自治が進んでいる行政組織だ。
 長年にわたって地方分権化に取り組んでいるが、なかなか成果が出ていない。

外交
フランス、英国などの大国の介入や、冷戦下の紛争などといった歴史的な背景から、タイは全方位的等距離外交を基軸に、多面的かつ柔軟な外交政策をとっている。
近年、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、原加盟国のタイにとって外交の柱である。1967年のASEAN結成に参加し、ASEAN重視を基本方針としてきた。また、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマーのASEAN参加に尽力し、ASEAN10を完成させ、東南アジア地域の安定化を目指している。
ASEAN+3(日本・中国・韓国)、東アジア首脳会議(EAS)、アジア欧州会合(ASEM)、アジア地域フォーラム(ARF)などにも積極的に関与している。
ただ、隣接するカンボジア、ラオス、ミャンマーとマレーシアとの関係については、互いが侵略する・される立場だった歴史を持ち、また未確定な国境線、麻薬、不法移民、人身売買、少数民族、資源開発など、長年にわたり様々な問題を抱えているのが現状である。

軍事
国王が、陸・海・空の3軍を統帥し、国軍最高司令官が3軍を指揮する。
軍の役割を、2007年憲法第77条では、「国は王制、独立、主権及び領土の保全を護持しなければならず、独立、主権、安全保障、王制、国益及び国王を元首とする民主主義制度統治を護持し、国を開発するために軍事力、武器及び必要かつ十分な最新技術を保持しなければならない」と規定している。
徴兵制を採用しており、21歳以上の男子には2年間の兵役義務がある。
総兵力は、正規兵が約300,000人、予備役約200,000人、準軍隊(志願制非正規兵)45,000人。内訳は、陸軍190,000人(うち徴兵70,000人)、海軍69,000人(うち海兵隊23,000人、徴兵26,000人)、空軍46,000人となっている。